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広島高等裁判所 昭和54年(行コ)5号 判決

控訴人・附帯被控訴人(被告) 小河政一

被控訴人・附帯控訴人(原告) 塚本正純 外三名

補助参加人 盛谷政夫 外一一名

主文

本件控訴を棄却する。

本件附帯控訴を却下する。

控訴費用は控訴人の負担とし、附帯控訴費用は被控訴人らの負担とする。

事実

控訴人は、「原判決中控訴人関係部分を取消す。被控訴人らの請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人らは、主文第一項同旨の判決を求め、附帯控訴として、「原判決主文第三項を取消す。一審被告安浦町長が、昭和四九年一二月四日控訴人に対し原判決添付目録記載の土地の貸付を解約したことに基づき右土地の明渡を求める措置をとるべきであるのに、その措置を怠つていることが違法であることの確認を求める。訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠の関係は、被控訴人らにおいて、甲第四三ないし第四八号証(但し、第四六号証は一ないし三)を提出し、後記丙号各証の成立を否認すると述べ、控訴人において、丙第八号証の一ないし三、第九号証の一、二を提出し、当審証人松村福市の証言を援用し、甲第四三、第四四号証の成立は不知、第四五、第四七、第四八号証の成立を認める、第四六号証の一ないし三は原本の存在及びその成立を認めると述べたことを附加するほか、原判決事実摘示中控訴人関係部分の記載と同一であるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所も、被控訴人らの控訴人に対する本訴請求は、正当としてこれを認容すべきものと判断する。その理由は、原判決の理由説示中控訴人関係部分記載のとおりであるから、これを引用する。当審における新たな証拠調の結果によつても、右判断を左右するに足りない。それ故、原判決は相当であつて、控訴人の本件控訴は理由がない。

二  被控訴人らは、附帯控訴として、原判決中一審被告安浦町長が控訴人に対し本件土地の明渡を求めるべき措置を怠つていることが違法であることの確認を求める請求を棄却した部分を取消し、右違法確認を求める旨の申立をなしているが、右違法確認請求は一審被告安浦町長を相手方としてなされたものであるところ、同被告が原判決に対し何ら控訴の申立をしていないことは、顕著な事実である(なお、本件附帯控訴が控訴期間経過後に提起されたものであることは、記録上明らかである。)。さすれば、被控訴人らの本件附帯控訴は、不適法として却下を免れない。

三  よつて、訴訟費用の負担につき、民訴法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 胡田勲 土屋重雄 大西浅雄)

原審判決の主文、事実及び理由

主文

被告小河政一は、広島県豊田郡安浦町に対し、別紙目録記載の土地上に築造中の門構等の物件を収去して右土地を明渡せ。

被告安浦町長がなした昭和四八年九月二〇日付の被告小河政一に対する右土地の貸付処分が無効であることの確認を求める訴を却下する。

被告安浦町長が、昭和四九年一二月四日被告小河政一に対し右土地の貸付を解約したことに基き右土地の明渡を求める措置をとるべきであるのに、その措置を怠つていることが違法であることの確認を求める請求を棄却する。

本訴の訴訟費用については、原告らと被告安浦町長との間に生じたものは、全部原告らの負担とし、原告らと被告小河政一との間に生じたものは、全部被告小河政一の負担とする。

参加によつて生じた訴訟費用については、補助参加人らと被告安浦町長との間では、全部補助参加人らの負担とし、補助参加人らと被告小河政一との間では、全部被告小河政一の負担とする。

事実

一 双方の申立

原告らは、被告安浦町長に対し、「被告安浦町長がなした昭和四八年九月二〇日付の被告小河政一に対する別紙目録記載の土地の貸付処分は無効であることを確認する。被告安浦町長は、昭和四九年一二月四日被告小河政一に対し右貸付を解約したことに基き別紙目録記載の土地の明渡を求める措置をとるべきであるのに、同町長がその措置を怠つていることは違法であることを確認する。」との判決を、被告小河政一に対し、「被告小河政一は、広島県豊田郡安浦町に対し、別紙目録記載の土地上に築造中の門構等の物件を収去して右土地を明渡せ。」との判決を、被告らに対し、「訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決をそれぞれ求めた。

被告らは、「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求めた。

二 原告ら及び補助参加人らの主張

(一) 原告ら及び補助参加人らは、いずれも広島県豊田郡安浦町の住民である。

(二) 被告安浦町長は、昭和四八年九月二〇日被告小河に対し安浦町の所有財産である別紙目録記載の土地(以下本件土地という)を貸付料金一ケ年一三、五一一円と定めて貸付けた(以下この貸付を本件貸付という)。

(三) しかしながら右貸付は次の理由によつて無効である。

1 本件土地は行政財産であるから、地方自治法二三八条の四の三項により無効である。

2 本件土地の適正貸付料は、少くとも一ケ年九四、五六七円であるから、本件貸付料は適正な対価ではなく、したがつて条例又は議会の議決によるのでなければ貸付けできないところ、本件貸付については条例上の根拠はなく、議会の議決もないから無効である。

(四) 仮に無効でないとしても、次の理由によつて本件貸付は終了している。

1 被告安浦町長は、昭和四九年一二月四日被告小河に対し本件貸付を解約する旨の意思表示をした。

2 仮に右意思表示によつて本件貸付が終了していないとしても、本件貸付は、昭和五〇年三月三一日までを貸付期間とするものであるから、既に期間満了により終了した。

3 仮に右主張が認められないとしても、被告安浦町長は、昭和五一年一二月二五日被告小河に対し本件貸付を解約する旨の意思表示をした。

(五) 被告小河は、本件土地上に築造中の門構等の築造物を所有して右土地を占有している。

(六) 被告安浦町長は、昭和四九年一二月四日被告小河に対し本件貸付を解約する旨の意思表示をしたにもかかわらず、長期間にわたり被告小河に対し本件土地明渡のための措置をとらないで放置している。

(七) 原告らは、昭和四九年七月一五日安浦町監査委員に対し本件貸付について監査請求したところ、監査委員は、昭和四九年九月一三日被告安浦町長に対し本件貸付を早急に解約するよう勧告した。

(八) よつて原告らは、被告安浦町長に対し、本件貸付が無効であることの確認と同町長が、昭和四九年一二月四日被告小河に対し本件貸付を解約する旨の意思表示をしたにもかかわらず、被告小河に対し本件土地の明渡を求める措置を怠つていることは違法であることの確認を求め、さらに安浦町に代位して被告小河に対し原状回復として本件土地上に築造中の門構等の物件の収去と本件土地の明渡を求める。

三 原告ら及び補助参加人らの主張に対する被告らの答弁

(被告安浦町長)

原告ら及び補助参加人らの主張(一)及び(二)の事実は認める。同(三)の事実は争う。本件土地は普通財産であり、本件貸付は適正な対価による貸付である。同(五)の事実は認める。同(六)の事実のうち、被告安浦町長が昭和四九年一二月四日被告小河に対し本件貸付を解約する旨の意思表示をしたことは認めるが、その余は争う。同(七)の事実は認める。

(被告小河)

原告ら及び補助参加人らの主張(一)ないし(三)、(五)及び(七)についての答弁は、被告安浦町長の答弁と同一であるからこれを援用する。同(四)の事実のうち、1及び3は認め、2については本件貸付に昭和五〇年三月三一日までを貸付期間とする旨の定めがあることは認めるが、その余は争う。本件貸付は建物の所有を目的として締結されたものである。

四 証拠関係〈省略〉

理由

一 原告ら及び補助参加人らの主張(一)及び(二)の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二 原告ら及び補助参加人らは、本件土地が行政財産であることを前提に本件貸付は無効であると主張し、その無効確認を求めているので、右主張の当否について検討する。

(一) いずれも成立に争いない甲第四、第一四、第一七号証、公文書であつて真正に成立したものと認める乙第一及び第八号証、証人山野一の証言により真正に成立したものと認められる乙第一二号証、証人船井学、同長田正、同小河潤一、同平岡一真、同山広守恒(但し一部)及び同山野一の各証言、被告安浦町長田中信男(第一、第二回。但し第一回は一部)及び被告小河政一の各本人尋問の結果を総合すると、被告小河は、安浦町の国鉄安浦駅前に訴外小河潤一を所有名義人とする油倉庫などの建物を所有していたところ、安浦町において昭和四七年当時駅前美化事業が計画され、その事業の一環として被告小河に対し右建物の撤去を求めることになつたこと、そこで被告安浦町長はその代替地として本件土地を被告小河に貸付けることとし、昭和四八年九月二〇日本件貸付をしたこと、本件土地を含む広島県豊田郡安浦町大字三津口字古新開川南一番四、宅地二、二三三・一二平方メートル(登記簿上の地積)は、もともと安浦町が国から払下を受けた土地で、同町ではこれを公営住宅、水防倉庫の用地として使用する外、一部を訴外東一十(東鉄工所)その他の者に貸付けており、同町の土地台帳上は三津口公営住宅用地とされ、普通財産として分類されていたこと、本件土地は右一番四の土地の一部であつて、そのうち別紙図面のハ、ニ、ホ、ヘ、ト、ハの各点を順次直線で結んだ範囲内は、もと呉市営バスの車庫用地として貸付けられていた土地の一部で、安浦町が昭和四七年一一月一日に返還を受けたものであり、その余の部分(別紙図面のイ、ロ、ハ、ト、チ、イの各点を順次直線で結んだ範囲内)には安浦町の水防倉庫(以下旧水防倉庫という)が存在し、安浦町ではこれを行政財産と分類管理していたこと、被告安浦町長は、本件貸付に当り本件土地を被告小河に貸付けるためと、かつは旧水防倉庫が安浦町役場から離れていて管理上不便であつたことから、旧水防倉庫の用を廃し、新たに安浦町役場の近くの建物を水防倉庫とすることとして、旧水防倉庫を行政財産から普通財産に分類換するための手続を昭和四八年四月一五日頃までに終え、さらに本件貸付の日である同年九月二〇日までには旧水防倉庫内の水防器具等の備品も他に移転され、同水防倉庫は解体撤去されたことが認められる。証人山広守恒の証言及び被告安浦町長田中信男の本人尋問の結果(第一回)のうち右認定に反する部分は措信できず、他に右認定を覆すに足る的確な証拠はない。

(二) ところで行政財産とは、普通地方公共団体において公用又は公共用に供し、又は供することと決定した財産をいい、普通財産とは、行政財産以外の一切の公有財産をいうのであるから(地方自治法二三八条三項)、公有財産が行政財産と普通財産のいずれに分類されるかは専らその用途によつて決せられ、普通地方公共団体が内部処理として如何なる分類をしているかは関係ないものと解すべきである。これを本件土地についていえば、呉市営バスの車庫用地として貸付けられていた部分は、土地台帳記載のとおり普通財産であるが、水防倉庫は行政財産であるから、その敷地も行政目的に供されていたものとして、安浦町が土地台帳上普通財産と分類していたことには関係なく、行政財産であつたというべきである。もつとも旧水防倉庫は、その用を廃され、行政財産から普通財産に分類換され、解体撤去された上、その後に本件貸付がされているのであるから、遅くとも本件貸付が行なわれた昭和四八年九月二〇日の時点においては、旧水防倉庫敷地も普通財産になつたものという外ない。

しかして普通地方公共団体が行政財産を貸付ける場合であればともかく普通財産の貸付は一般私人と同様の立場において貸付けるものであるから、これをもつて行政処分であるということはできず、また地方自治法二四二条の二の規定に基く住民訴訟において無効確認を求めることが許されるのは行政処分の性質をもつ違法行為のみであるところ、本件貸付は普通財産であつた本件土地の貸付で行政処分の性質を有しないから、その無効確認を求めることはできない。

三 次に地方自治法二三七条二項によれば、普通地方公共団体の財産は、条例又は議会の議決による場合でなければ、適正な対価なくしてこれを貸付けてはならないのであるが、証人平岡一真の証言及び被告安浦町長田中信男の本人尋問の結果によると、本件貸付が行なわれた当時安浦町には町有財産の貸付に関する条例はなく、また本件貸付については議会の議決を経ていなかつたことが認められるから、本件貸付が適正な対価によらないものであれば地方自治法二三七条二項に反することになり、その場合貸付契約は無効であると解するのが相当である。

そこで本件貸付における貸付料年額一三、五一一円が適正な対価であるか否かについて検討することとする。

(一) 前掲甲第四号証、乙第一二号証、証人平岡一真、同山広守恒の各証言及び弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める乙第二号証、証人船井学、同平岡一真、同山広守恒、同山野一の各証言及び被告安浦町長田中信男の本人尋問の結果(第一回)を総合すると、安浦町の企画財政課に勤務していた訴外山広守恒は、昭和四八年一月頃被告安浦町長田中信男から本件土地を被告小河に貸付ける趣旨の禀議を提出するよう求められ、貸付料年額についての案をきめるため近傍類地の地代を調査したところ、訴外佐賀原久男が本件土地の隣地である広島県豊田郡安浦町大字三津口字古新開川南一番六、宅地二、六四九・二一平方メートルの一部を訴外ダルマ木工株式会社に賃貸している事例においては、別紙貸付料事例1記載のとおり一坪当り貸付料年額が一、七七七円であり、他方当時国(大蔵省)が国有財産を貸付ける場合固定資産課税台帳上の評価額(以下固定資産評価額という)に地域別に定められた評価倍率を乗じ、それによつて得た額にさらに一定の率(新規貸しで借主が個人の場合一〇〇分の六)を乗じて貸付料年額が定められていたことを参考にして、本件土地と一坪当りの固定資産評価額が同等とみられる右佐賀原所有地が国有地であつたと仮定した場合の貸付料年額を算出することとし、右佐賀原所有地の固定資産評価額の一平方メートル当りの価格五、八九八円に川南地区の評価倍率二・一を乗じ、それによつて得た額に借主が同一町内の居住者であることを考慮して一〇〇分の六でなく任意に低率の一〇〇分の四を乗じたところ、それによつて得られた一平方メートル当り貸付料年額は四九五円四三銭(一坪当りに換算すると一、六三八円)となり、実際の一坪当り貸付料年額に近い数値を示したこと、次に安浦町が本件土地の隣接地を訴外東一十らに貸付けている事例での本件貸付当時における一坪当り貸付料年額は別紙貸付料事例2ないし5記載のとおりで、同事例1記載のそれに比較して著しく低額であつたこと、そこで前記山広は当時安浦町議会で町が借りるときは高い貸付料で借りるのに町が貸すときは安い貸付料で貸すといつた非難の意見も出ていたことから、昭和四八年一月二七日頃国が国有地を貸付ける場合の貸付料年額を参考にして算出した前記一平方メートル当り貸付料年額四九五円四三銭に本件土地の地積一九〇・八八平方メートルを乗じて得た額、九四、五六七円をもつて貸付料年額とするのが相当であると考えて決裁を仰いだこと、ところが被告安浦町長田中信男は、その貸付料年額が安浦町において貸付けている本件土地の隣接地の貸付料に比較して高過ぎるので、安浦町の貸付事例を参考にして再度検討するよう指示し、そのため前記山広は、同年三月五日頃別紙貸付料事例2ないし4記載の一坪当り貸付料年額の平均値二三四円に本件土地の地積を乗じて得た額一三、五一一円を貸付料年額とした起案をして決裁を仰ぎ、結局その額が本件土地の貸付料とされるに至つたこと、佐賀原久男がダルマ木工株式会社に賃貸している前記土地には二四〇坪の建物があり、前記山広は建物の賃料月額を約一万円、土地(二七〇坪)の賃料月額を約四万円として土地の一坪当り賃料年額を算出していること、本件貸付当時国(大蔵省)が国有財産を貸付ける場合、貸付料の基準とするために固定資産評価額に地域別の評価倍率を乗じた額にさらに乗ずる一定の率は、地方公共団体に継続的に貸付けている場合が一〇〇分の二で、新規貸しの場合借受人が地方公共団体であれば一〇〇分の四、個人であれば一〇〇分の六であつたこと、安浦町が訴外岡田久也から内海小学校用地として借受けている土地の一坪当り賃借料年額は、本件貸付当時において六〇〇円、昭和五二年当時において九五〇円であり(別紙貸付料事例6)、安浦町が訴外山根敏男らに本件土地の隣接地を貸付けている事例における昭和五二年当時の一坪当り貸付料年額は、別紙貸付料事例3ないし5記載のとおりであつたこと、がそれぞれ認められ、以上の認定を左右するに足る証拠はない。

(二) ところで地方自治法二三七条二項にいう「適正な対価」とは時価をいうものと解すべきところ、本件土地の隣接地である佐賀原所有地の賃貸事例は地上に建物のある場合で土地の賃料月額を約四万円、建物の賃料月額を約一万円とした根拠が必らずしも明らかでないから、前記山広が算出した土地の一坪当り貸付料年額一、七七七円(別紙貸付料事例1)をもつて時価であるとすることは困難であり、また国(大蔵省)が国有財産を貸付ける場合の貸付料は時価に近いものといえるにしても当然に時価を示すものとはいゝ難いので、前記認定事実からのみでは本件貸付当時における本件土地の貸付料について時価が何程であるかを確定することはできないが、佐賀原所有地の賃貸事例、国(大蔵省)の貸付料の外、別紙貸付料事例3ないし6の本件貸付当時及び昭和五二年当時における貸付料を総合考察すると、本件土地の本件貸付当時における貸付料についての時価は、如何に低くみても安浦町が岡田久也から借受けている事例(別紙貸付料事例6)における一坪当り年額六〇〇円を下回ることはないものということができる。しかして一坪当り年額六〇〇円に本件土地の地積一九〇・八八平方メートル(約五七・七四坪)を乗ずると、三四、六四四円となるから、本件貸付における貸付料一三、五一一円は到底適正な対価であるとはいえない。

してみると本件貸付は、適正な対価によらずして貸付けたことになるが、地方自治法二三七条二項は普通地方公共団体の財政の健全な運営を図らせる趣旨の規定であるから、同条項に違反する契約は無効であると解するのが相当であり、したがつて本件貸付は無効な契約であるという外ない。

四 しかして原告ら及び補助参加人らの主張(五)の事実は当事者間に争いがないところ、前説示のとおり、本件貸付は無効であるから、被告小河には本件土地の占有権原はなく、したがつて被告小河は、安浦町に対し本件土地上に築造中の門構等の物件を収去して右土地を明渡す義務を負うことになる。

五 次に、原告らは、被告安浦町長が昭和四九年一二月四日被告小河に対し本件貸付を解約する旨の意思表示をしたことに基き、被告安浦町長が被告小河に対し本件土地の明渡を求める措置を怠つていることが違法であることの確認、すなわち怠る事実の違法確認を求めているけれども(被告安浦町長が被告小河に対し右解約の意思表示をしたことは、原告ら及び補助参加人らと被告安浦町長との間に争いがない)、本件貸付は右解約の意思表示をまつまでもなくそもそも無効であるから、これが無効であることを前提として怠る事実の違法確認を求めているのであれば、被告安浦町長に職務の懈怠があるかどうか判断すべきことにもなるが、本件貸付が無効であるため、もはやその効力を生じ得べきもない右解約を理由として怠る事実の違法確認を求めている限りにおいて原告らの右請求は理由がないことに帰する。

なお、原告らが本訴で被告小河に対し本件土地の明渡を求めているのは、安浦町に代位して請求していることに外ならないから、被告安浦町長が本件貸付の失効を理由として本訴と別個に安浦町から被告小河を相手として本件土地の明渡を求める訴を提起することは二重起訴として許されないものというべきであり、したがつて本訴が裁判所に係属している以上被告安浦町長が被告小河に対し本件土地の明渡を求める訴を提起する措置をとらないことをもつて職務の懈怠であるとすることはできない。

六 以上の説示によると、その余の点について判断するまでもなく、原告らの本訴請求のうち、被告安浦町長に対し、本件貸付が無効であることの確認を求める訴は不適法であるから却下し、怠る事実の違法確認を求める請求は理由がないから棄却し、被告小河に対し、本件土地上に築造中の門構等の物件を収去して右土地明渡を求める請求は理由があるから認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条、九四条を適用して主文のとおり判決する。

目録

広島県豊田郡安浦町大字三津口字古新開川南一番四

宅地 二二三三・一二平方メートル(登記簿上)

のうち別紙図面のイ、ロ、ハ、ニ、ホ、ヘ、ト、チ、イの各点を順次直線で結んだ範囲内の部分一九〇・八八平方メートル(斜線部分)

(図面)〈省略〉

貸付料事例

貸主

借受人

貸付の始期

貸付場所

本件貸付(48・9・20)当時

昭和52年当時の1坪当り貸付料年額(円)

貸付面積

貸付料年額(円)

1坪当り貸付料年額(円)

1

佐賀原久男

ダルマ木工株式会社

安浦町大字三津口字古新開川南1―6

270坪

約480,000

1,777

2

安浦町

東一十

35.4.1

同所1―4

195.63坪

50,863

259

3

同上

山根敏男

35年

同上

181.95坪

41,848

229

1,223

4

同上

呉市交通企業管理者

28.4.1

同上

140坪

30,000

214

1,233

5

同上

岩崎英二郎

35.6.15

同上

105.70坪

21,140

200

1,074

6

岡田久也

安浦町

38年

安浦町大字内海字田屋1573,1577

676.42坪

405,852

600

950

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